パニック症(パニック障害)、パニック発作について
「突然、理由もなく激しい不安や恐怖に襲われ、体に様々な症状が出る」――これがパニック症の特徴です。これまで広く「パニック障害」と呼ばれていましたが、最新の診断基準(DSM-5)の改訂に伴い、現在は「パニック症」という呼び方に変わりました。なお、パニック症は広い意味での「不安症」という大きなグループの一種に位置づけられています。
パニック発作はいつ何時でも(自宅でリラックスしているときでも)起こりえます。しかし、特に「一度発作を起こした場所」や、「もし発作が起きても、すぐにその場から逃れにくい場所」で起こりやすいという特徴があります。
【すぐに逃れにくい場所の具体例】
乗り物・移動: 電車、車の運転中(特に渋滞、トンネル、長い橋の上、高速道路など)、飛行機、バス
椅子: 歯医者さんの治療台の上、美容院・理容室の椅子
閉ざされた空間: 会議・ミーティング、映画館、劇場、エレベーター、混雑したスーパーやショッピングモール
その他: レジの行列、MRI検査の機器内
診断と症状(DSM-5による基準)
1. パニック発作の症状(13の症状)
発作のときに、以下の13の症状のうち4つ以上が同時に激しく現れる場合、パニック発作と判断されます(すべての症状が一度に出るわけではありません)。
動悸・心拍数の増加(心臓がバクバクする)
発汗(嫌な汗が出る)
身震い
息切れ・息苦しさ
窒息感(喉が詰まるような感じ)
胸痛・胸部の不快感
嘔気(吐き気)・腹部の不快感
めまい感・ふらつき・気が遠くなる感じ
寒気、または熱感(ほてり)
痺れ(しびれ)感・うずき感
現実喪失感(周囲が現実ではないように感じる)、または離人感(自分が自分から離れていくような感覚)
コントロールを失う恐怖(自分がどうかなってしまうのではないかという不安)
死ぬことに対する恐怖
【知っていただきたいこと】
最初は内科や救急外来を受診されることも多い症状です: パニック発作は「心臓が止まるのではないか」「息ができなくて死んでしまうのではないか」と思うほど激しい体の症状が出現するため、まずは救急外来や内科、循環器内科などを受診されることが非常に多いです。しかし、病院で心電図や血液検査などの精密検査を受けても、身体的にはまったく異常を指摘されないのがこの病気の特徴でもあります。「異常がないのにつらい症状が繰り返す」という場合は、パニック症の可能性があります。
発作の持続時間について: パニック発作は非常に激しい恐怖を伴うため「このまま死んでしまうのではないか」と感じられますが、発作そのもので命を落とすことは絶対にありません。通常、発作の激しいピークは10~20分程度で、長くても1時間以内には自然と治まっていきます。
2. 広場恐怖症(ひろばきょうふしょう)
パニック症と深く関係しているのが「広場恐怖症」です。これは「もし発作が起きたら、すぐに逃げ出せない、あるいは助けが得られそうにない場所や状況」に対して、強い恐怖や不安を感じて避けてしまう状態を指します。
DSM-5では、以下の5つの状況のうち2つ以上に対して強い不安・恐怖を感じ、その場所を避けたり、誰かに付き添ってもらわないと耐えられなくなったりする場合に診断されます。
公共交通機関の利用(電車、バス、飛行機など)
広い場所にいる(駐車場、大きな橋、ショッピングモールなど)
囲まれた場所にいる(映画館、エレベーター、小さな店舗など)
列に並ぶ、または人混みの中にいる
家の外に一人でいる
「またあの場所で発作が起きたらどうしよう」という強い不安(予期不安)から、行動範囲が狭まってしまうのがこの症状の特徴です。
治療法について
パニック症の治療では、お薬を上手に使うことで発作を抑え、徐々に自信を取り戻していくことができます。主に2種類のお薬を組み合わせて治療を行います。
1. 薬物療法
① 発作を予防する薬(第一選択薬)
脳内の神経伝達物質のバランスを整え、発作自体を起こりにくくするベースとなるお薬です。「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」が第一選択となります。
エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)
セトラリン(商品名:ジェイゾロフト)
パロキセチン(商品名:パキシルなど)
フルボキサミン(商品名:ルボックス、デプロメール)
② 突然の発作や強い不安をその場で抑える薬(頓服・短期的使用)
即効性があり、今起きている発作や「発作が起きそう」という強い不安を一時的に和らげるお薬です。依存性や耐性に配慮し、適切かつ短期的に、必要なときだけ使用します。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬:
ジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾン)
アルプラゾラム(商品名:ソラナックス、コンスタン)など
2. 日常生活で留意していただきたい点(環境調整)
パニック発作は、自律神経の乱れや脳の神経の過敏さと関係しています。治療中は、発作を誘発しやすい以下の要素をできるだけ避けるなど、ライフスタイルの見直しも大切です。
カフェインの摂取を控える: コーヒー、エナジードリンク、濃い緑茶などに含まれるカフェインは、中枢神経を刺激して動悸や不安感を高め、発作を引き起こしやすくすることが知られています。できるだけノンカイフェインの飲料を選びましょう。
睡眠不足を避ける: 睡眠が足りないと脳の疲労が取れず、不安に対して脆くなってしまいます。規則正しい睡眠リズムを心がけてください。
過労に気をつける: 肉体的な疲労や精神的なストレスが蓄積すると、自律神経のバランスが崩れて発作の引き金になります。適度に休養をとる環境づくりが大切です。
高温多湿の環境を避ける: サウナや長風呂、夏場の閉め切った部屋などの「蒸し暑い環境」は、体温の上昇や息苦しさを引き起こし、それがパニック発作の引き金や初期症状(動悸や息切れ)と結びついて強い不安を誘発することがあります。室温・湿度の調整やこまめな水分補給を心がけ、体調が優れないときは長時間の入浴やサウナ等は控えましょう。
併存症
パニック症は単独で発症するだけでなく、他の精神疾患と同時に併発する(併存症)ことが多くあります。併存症を適切に診断し、並行して治療することは、症状の安定のために不可欠です。
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