滋賀県大津市
JR瀬田駅前の精神科・心療内科

おうみのくにクリニック

双極症(双極性障害/躁うつ病)について

「気分の波」は誰にでもあるものですが、その波が自身のコントロールを超えて極端に大きくなり、日常生活や仕事、人間関係に大きな支障をきたす症状が出ます。双極症は、決して「心が弱いから」「性格の問題」ではありません。脳の働き(神経伝達物質のバランスや脳の機能)の変化が関係していることが分かっています。

以前は「躁うつ病」と呼ばれており、最近まで「双極性障害」という名称が使われていましたが、現在は国際的な診断基準(DSM-5-TR)の改訂に伴い、より病態を適切に表す「双極症」という呼称への移行が進んでいます。

診断と症状(DSM-5による基準)

双極症は、気分が異常に高揚する「躁状態」または「軽躁状態」と、気分が著しく落ち込む「うつ状態」を繰り返します。国際的な診断基準では、その波の強さや持続期間によって主に「双極Ⅰ型」と「双極Ⅱ型」に分類されます。

1. 躁状態・軽躁状態の症状

DSM-5では、単に気分が良いだけでなく、「気分が異常に高揚し、開放的で、または怒りっぽくなり、同時に活動性やエネルギーが異常に高まった状態」が基本となります。この期間中、以下の7つの症状のうち3項目以上(気分が単に怒りっぽいだけの場合は4項目以上)が満たされ、明らかに普段のその人と違うレベルに達していることが基準となります。

  1. 自尊心の肥大(万能感): 自分は何でもできる、特別な才能がある、偉くなったと思い込む。

  2. 睡眠欲求の減少: ほとんど眠らなくても(例:3時間睡眠など)、エネルギーが有り余って元気に活動できる。

  3. 多弁(おしゃべり): いつもより口数が多くなる、話し続けずにはいられない。

  4. 観念奔逸(かんねんほんいつ): 次から次へとアイデアが湧き、頭の回転に口が追いつかず、話があちこちに飛ぶ。

  5. 注意散漫: ひとつのことに集中できず、周囲の些細な刺激にすぐ気を取られてしまう。

  6. 活動性の増加・精神運動興奮: 目的もなく新しい仕事を次々始めたり、じっとしていられず動き回ったりする。

  7. 痛快な結果をもたらす活動への過度な熱中(無謀な行動): 後で大きな不利益(経済的・社会的破綻)を被るリスクが高いにもかかわらず、歯止めの効かない高額な買い物、無計画な投資、性的な逸脱行動などに走ってしまう。

【Ⅰ型とⅡ型の違いと持続期間】

  • 双極Ⅰ型(躁病エピソード:1週間以上持続): 上記の症状が「1週間以上」、ほぼ毎日、大半の時間持続します。社会生活や仕事が完全に破綻するほど激しく、家族や周囲とのトラブルが大きくなりやすいため、緊急の入院加療が必要になることも少なくありません。

  • 双極Ⅱ型(軽躁病エピソード:4日間以上持続): 上記の症状が「4日間以上」、明確に持続します。ただし、Ⅰ型のような社会的な破綻(警察沙汰や入院が必要なレベルのトラブル)には至らず、周囲からは「少し元気すぎる、いつもより調子が良さそう」に見える程度にとどまります。

2. うつ状態(うつ病相)の症状

双極症の期間の大半は、実はこの「うつ状態」が占めています。

  • 持続期間(2週間以上): 一日中気分が落ち込み、何をしても楽しいと感じられない状態が「2週間以上」にわたってほぼ毎日持続します。

  • エネルギーの低下・おっくう感: 体が鉛のように重く、動くのが億劫になる。思考力や集中力も著しく低下します。

  • 【双極症に多い特徴】過眠・過食: 単極性のうつ病では不眠や食欲低下が多いのに対し、双極症のうつ状態では「いくらでも眠れる(過眠)」「チョコレートなどの甘いものを食べすぎてしまう(過食)」という傾向が見られることがあります。

  • 日内変動の激しさ: 朝は起き上がれないほど悪いのに、夕方から夜にかけて急に動けるようになるといった、1日の中での波が激しいことがあります。

3. 混合状態(混ざり合った状態)

躁状態(あるいは軽躁状態)とうつ状態の症状が、同時に、または目まぐるしく入れ替わって現れる状態を「混合状態」と呼びます。

  • 症状の例: 「気分は激しく落ち込んで絶望しているのに、頭の中に焦燥感でいっぱいで、じっとしていられず動き回ってしまう」「イライラして活動的だが、心の中は悲しみや涙で満ちている」といった状態です。

うつ病(単極性うつ病)との鑑別

最も重要なのが、いわゆる「うつ病」との鑑別です。双極症の患者さんの多くは、最初に「うつ状態」でクリニックを受診します。この時点では過去の(軽)躁状態に気づいていない(または医師に伝えていない)ことが多く、最初は「うつ病」と診断されるケースが少なくありません。双極症とうつ病では治療方法が異なるため、この両者を区別することが重要です。

治療法について

双極症の治療は、単極性のうつ病とは大きく異なります。主軸となる「薬物療法」は、患者さんの現在の状態(病相)に合わせて、以下の3つのフェーズを切り替えながら進めていきます。

1. 躁病相(躁状態)の治療

  • 目的: 激しい気分の上昇や衝動性を、本人と周囲の社会生活を守るために「速やかに鎮める」ことです。

  • 主なお薬: 興奮を抑える効果が強い非定型抗精神病薬であるオランザピン(商品名:ジプレキサ)、クエチアピン(商品名:セロクエル)、アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)などや、気分の高まりを抑える気分安定薬であるリチウム(商品名:リーマス)、バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)などを使用します。

2. うつ病相(うつ状態)の治療

  • 目的: 深いうつ状態の苦痛を和らげ、日常生活が送れるレベルまで気分を引き上げることです。

  • 主なお薬: いわゆる一般的な「抗うつ薬」は原則として第一選択にはならず、双極症のうつ状態に有効性が認められている特定の非定型抗精神病薬であるクエチアピン(商品名:ビプレッソ)、ルラシドン(商品名:ラツーダ)、オランザピン(商品名:ジプレキサ)などや、リチウム(商品名:リーマス)などを慎重に使用します。

3. 維持療法(再発予防)

  • 目的: 躁うつ双方の波が収まり、平穏になった状態(寛解期)を「長く維持し、次の再発を防ぐ」ことです。双極症は非常に再発しやすい病気ですが、この維持療法を続けることで、波を最小限に抑えることができます。

  • 主なお薬: 気分安定薬であるリチウム(商品名:リーマス)、ラモトリギン(商品名:ラミクタール)、バルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)などを、調子が良いときでも毎日継続して服用します。

  • 注意点: 「もう治った」と自己判断でお薬をやめてしまうと、高確率で激しい再発を招きます。

併存症

双極症は単独で発症するだけでなく、他の精神疾患と同時に併発する(併存症)ことが多くあります。併存症を適切に診断し、並行して治療することは、気分の波を安定させるために不可欠です。

  • ADHD(注意欠如・多動症): 「じっとしていられない」「次々にアイデアが浮かぶ」「衝動的な行動」といった特徴が双極症の躁状態と重なるだけでなく、実際にADHDと双極症を併発している患者さんは少なくありません。ADHDの不注意や多動が双極症の気分の波を刺激してしまうことがあるため、まずは双極症の気分の波(薬物療法)をしっかりと安定させた上で、ADHDの治療を慎重に並行していくことが重要になります。

  • 不安症群(パニック症社会不安症など): 強い不安や緊張、パニック発作を併発することがあります。特にうつ状態の時期に不安が強まると、本人の苦痛が倍増するため、不安に対する適切なアプローチ(お薬の調整や精神療法)も同時に行います。

  • 強迫症(強迫性障害): 「手が汚れているのではないか(不潔恐怖)」と何度も手を洗ったり、「鍵を閉め忘れたのではないか」と過剰に確認を繰り返したりするなど、不合理な不安(強迫観念)とそれを打ち消す行動(強迫行為)が止まらなくなる病気です。双極症のうつ状態の時期に強迫症状が悪化しやすく、本人の苦痛をさらに深める原因となるため、気分の波の安定と並行して、強迫症状に対する適切なアプローチ(お薬の調整や認知行動療法など)を行うことが重要です。

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