覚えのない行動、それは睡眠薬による“せん妄”かもしれません
せん妄とは、意識レベルが低下し、周囲の状況を正しく認識できなくなる状態のことです。高齢者の入院時などに起こることがよく知られていますが、実は睡眠薬などの副作用としても起こることがあります。
せん妄が起きている間、本人は一見普通に会話をしたり行動したりしているように見えても、実際には意識がぼんやりとした状態にあります。そして最大の特徴は、せん妄中の出来事をあとで全く覚えていないということです。
睡眠薬とせん妄の関係
睡眠薬の中でも、昔から広く使われてきたベンゾジアゼピン系(および類似の作用を持つ薬)は、せん妄を引き起こしやすいことが分かっています。代表的な薬剤には以下のようなものがあります。
ゾルピデム(商品名:マイスリー)
ゾピクロン(商品名:アモバン)
エチゾラム(商品名:デパス)
ブロチゾラム(商品名:レンドルミン)
フルニトラゼパム(商品名:サイレース、ロヒプノール)
など
※ゾルピデムとゾピクロンは厳密には「非ベンゾジアゼピン系」に分類されますが、脳への作用のしかたはベンゾジアゼピン系と似ており、せん妄のリスクについても同様の注意が必要とされています。
これに対して、近年処方されることが増えているオレキシン受容体拮抗薬である
商品名:ベルソムラ
商品名:デエビゴ
商品名:クービビック
商品名:ボルズィ
や、メラトニン受容体刺激薬である
ラメルテオン(商品名:ロゼレム)
は、脳への作用の仕組みが異なり、せん妄を起こしにくい薬として位置づけられています。そのため、特に高齢の方や、せん妄のリスクが心配される方には、こうした新しいタイプの薬が選ばれる傾向にあります。
せん妄が起きるとどのような行動が見られるか
睡眠薬によるせん妄が起きると、意識が低下した状態のまま無意識に何らかの行動をとってしまうことがあります。よく見られるのは、次のようなものです。
覚えがないのに、何かを食べた形跡がある
覚えがないのに、タバコを吸った形跡がある
覚えがないのに、ガスコンロを使用した形跡がある
覚えがないのに、スマートフォンやテレビのリモコンを操作している
覚えがないのに、誰かに電話をかけている、あるいはメッセージを送っている
これらはすべて、本人には行動していたという記憶が一切ないという共通点があります。特にタバコやガスコンロの使用は、火の取り扱いを伴うため、火災などの重大な事故につながる危険性があり、注意が必要です。
気づき方は「同居か、一人暮らしか」で変わる
せん妄は意識障害の一種であるため、本人が自分で「今、おかしなことをしている」と自覚することはできません。そのため、気づくきっかけは家族と同居しているか、一人暮らしかによって異なります。
家族と同居している場合は、「昨日の夜、変なことを言っていたよ」「電話で誰かと話していたよ」と家族から指摘されて、初めて気づくことがあります。しかし、指摘されても本人は「寝ぼけていただけだろう」と思い込み、それが薬の副作用だとは考えず、主治医に報告しないまま様子を見てしまうことも少なくありません。
一人暮らしの場合は、指摘してくれる人がいないため、せん妄が起きていること自体になかなか気づけません。次のような行動の痕跡から、あとになって「もしかして」と気づくケースがあります。
朝起きたときに、食べた覚えがないのに何かを食べた形跡がある
スマートフォンを見ると、身に覚えのないメッセージのやり取りが残っている
電話をした相手から「昨日話した件だけど」と言われても、その内容を全く覚えていない
こんな症状があれば主治医に相談を
もし思い当たることがあれば、「寝ぼけていただけ」と自己判断せずに、必ず主治医や薬剤師に相談してください。睡眠薬の種類を見直すことで、せん妄のリスクを減らせる可能性があります。自己判断で急に薬を中止すると、離脱症状や不眠の悪化を招くことがあるため、必ず医師に相談しながら調整することが大切です。
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